セロトニン再取り込み阻害薬による不安緩和作用の作用機序解明-光遺伝学を用いて

大村 優
(北海道大学大学院医学研究科 助教)

2015年5月1日金曜日

神経科学に数学の時代到来の予感

最近の神経科学(脳科学)の技術発展は目を見張るものがあります。
あまりにも進展が早すぎて、ついていくのでやっと、という感じです。

ここ7-8年に絞って私の知る限りという制限の中でも、多くの革新がありました。

光遺伝学、
DREADD(人工受容体)、
ウィルスベクター技術の発展、
CRISPR/Cas9、
生体内光イメージング技術の発展、

どれも素晴らしい技術で、しかも互いに欠点を補完し合っています。
詳しく知りたい方はそれぞれの単語を検索してみてください。

さて、今回は最後の光イメージング技術というものについて話してみたいと思います。

光イメージングというのは神経細胞の活動を何らかの方法で光の波長変化に置き換えることで神経細胞の活動を記録するものです。例えば、神経細胞の活動が上昇すると緑色に光る、といった感じです。

この技術の長所は、何百個もの神経細胞の活動変化を同時にとらえられるということです。原理的にはもっと多くてもできるはずです。

この技術自体は結構昔からあったのですが、培養細胞で用いられるのが主体で、時々麻酔で眠らせた動物から記録をとった論文が出るぐらいでした。しかし最近は感度もシグナル/ノイズ比も格段に向上し、自由に動いている動物から記録をとることが可能になりました。まさに、生きている動物の頭の中をリアルタイムで覗くことができるわけです。

しかし、これらの進展を目の当たりにしながら、私には常に疑問がありました。それは、「どうやって複数の神経細胞の活動を統合的に分析するのか?」という疑問です。1つの細胞を記録するだけなら、単に活動が「上がった」「下がった」でいいのですが、複数、特に何百個もの活動を同時に記録した場合、それではすまないのです。「その莫大な情報から何が読み取れるのか?」この問いに答えない限り、光イメージングの発展は、「ふーん、すごいねー」で終わってしまいかねません。

この問題に答えを与える可能性があるのが、数学だと思います。最近、ビッグデータを扱う数学モデルが注目を集めているようですが、同じことが神経科学におけるビッグデータ(多くの神経細胞の活動変化)にも言えるでしょう。数百、数千、数万の神経活動を数式で表すことが出来たとしたら、それはとてつもなく素晴らしいことです。脳がどのように情報を処理しているのかが分かり、次に何が起こるのか、あるインプットに対してどう反応するのか、が数式にあてはめるだけで分かるのですから。

近いうちに、ノーベル生理学賞受賞者に数学者の名前が入る、なんてことがあるかもしれません。

残念ながら、私は数学が苦手なので、このエキサイティングな戦いに参戦できそうもないです。せめて進展があったときに理解できるように、少しずつ勉強しておこうか、と考えているところです。

数学なら誰にも負けない、という方、神経科学をやってみてはどうですか?


1 件のコメント:

  1. 大村先生
    お久振りです。財団の中原です。
    何を隠そう私も数学はどうも好きになれませんでした。世の中に出てからも、なんでも数式で表現し、説明しようとする人が存在するのにはびっくりした覚えがあります。そこまで数学にしがみつかなくても良いとは思うのですが、数学的というか論理的な考え方の基礎は、身に付けておくべきだったと思います。文科系だから数学が苦手では済まされないような場合がいくつかありましたから。。。
    ところで文中にあるCRISPRは、昨年の「実験医学」
    7月号でも特集されていました。最近ヒョンなことから、この「実験医学」を手にしたのですが、大村先生のような人が読んでいるんだろうなあ。。と思っていたところだったので、びっくりした次第です。

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