セロトニン再取り込み阻害薬による不安緩和作用の作用機序解明-光遺伝学を用いて

大村 優
(北海道大学大学院医学研究科 助教)

2015年9月28日月曜日

若手優秀発表賞受賞

第45回日本神経精神薬理学会において、若手優秀発表賞を受賞しました。

演題名:「光遺伝学による背側/正中縫線核セロトニン神経制御は不安、うつ、衝動性に部位依存的に影響を与える」

発表者:大村 優,田中 謙二,木村 生,常松 友美,山中 章弘,吉岡 充弘

慶應大学の田中先生、木村先生、名古屋大学の山中先生、常松先生(現在はUniversity of Strathclyde)との共同研究です。

この発表内容はまだ論文化できていないので、簡単に紹介するにとどめますが、概要は以下の通りです。

不安、抑うつ気分、衝動性などの精神機能に脳のセロトニン神経系が関与することは様々な間接的証拠から示唆されてきました。実際に、セロトニン神経系の働きを高めるとされるセロトニン再取り込み阻害薬が不安障害,気分障害(うつ病など)の治療に使用されています。
しかし、これまでの研究には以下のような問題がありました。
1.セロトニン神経「だけ」を操作することができていない。
2.不安、抑うつ、衝動性、はそれぞれ別の精神機能であるにも関わらず、「全てセロトニン神経が関与する」という雑な議論しかできていない(別々の精神機能なのだから別々の神経回路が関与しているはずでしょ?ということ)。

1.は単に技術的な問題で、従来の方法(電気刺激など)ではセロトニン神経以外の神経にも影響を与えてしまい、不安などが変化したとしても、それが果たして本当にセロトニンによるものなのか?が分からなかったのです。私たちはこの問題を、「光遺伝学」という手法を用いて解決しました。この方法は、植物や古細菌が持っている光受容体の遺伝子を動物の神経細胞の遺伝子に組み込むというもので、今回は遺伝子工学を駆使してセロトニン神経細胞「だけ」に光受容体(チャネルロドプシン2:ChR2)の遺伝子を組み込みましたこのマウスの脳内に光ファイバーを埋めて青色の光を当てると,短い時間(1分程度)セロトニン神経の活動だけを選択的に増加させることが可能になります。このマウスを用いて、セロトニン神経活動を増加させた場合にマウスの不安やうつ様行動、衝動的行動がどう変化するのかを調べれば、この問題は解決します。これが今回の発表の要の1つです。
2.については、セロトニン神経の回路を細かく分けて操作することで解決しようとしています。セロトニン神経細胞は脳幹という場所に固まっており、いくつかの小集団に分かれています。まずはこれらを別々に光照射して、特定のセロトニン神経小集団だけを刺激します。さらに、放出されたセロトニンを受け取る生体装置(受容体)にも種類があるので、その特定の種類だけを薬でブロックしたり、遺伝工学的に無くす(その生体装置、受容体の設計図となる遺伝子が機能しないようにしておく)、ということをします。こうすうることで、特定のセロトニン神経回路だけを操作して、どの回路がどの精神機能(不安、うつ、衝動性)に関与しているのか?を調べました。
この作業はまだ途中なのですが、ある程度うまくいっており、不安とうつの神経回路についてはかなり綺麗に分離できそうです。不安とうつ、というと似ている感じがするのですが、全く異なるセロトニン神経回路がそれぞれの精神機能に関わっているようです。不安と衝動性についても、関与する受容体の種類が異なるようです。
このあたりがもっとはっきりしてくると、様々な嬉しいことがあります。まず、私たちの生物の精神機能に対する「見方」が改善されるでしょう。例えば、一見似ていると思っていた感情が、実際には全く別物なのだ、というように。そしてもっと応用的な側面としては、精神疾患の治療法の指針を大きく変えるはずです。これまでは、うつ病なら「うつ」を治そう、不安障害なら「不安」を治そう、としてきたわけですが、「うつ」は治ったけど「不安」は悪化した、とか、「不安」は治ったけど衝動的になった、という問題がありました。これでは意味がないですよね。しかしそれぞれの神経回路をはっきり分離できるなら、それぞれの神経回路だけを操作できるような治療法を目指していけばいいわけです。私はこの研究が生物の感情に対する人々の価値感を変え、精神疾患治療法開発への足掛かりになると確信しています。

できるだけ分かりやすく話したつもりですが、まだまだ私もアウトリーチ活動初心者ですので、理解しがたい部分があったかもしれません。よく分からないところがあれば、是非コメントしてください。少しずつ直していきます。





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