セロトニン再取り込み阻害薬による不安緩和作用の作用機序解明-光遺伝学を用いて

大村 優
(北海道大学大学院医学研究科 助教)

2016年4月6日水曜日

論文紹介:マウス内側前頭前野の錐体細胞活性化によって餌探索行動が増す一方で、衝動性は抑えられる

最近、University of VirginiaのMichael Scottとの共同研究が実を結び、論文が無事発表されました。

Activation of pyramidal neurons in mouse medial prefrontal cortex enhances food seeking behavior while reducing impulsivity in the absence of an effect on food intake.
Warthen D, Lambeth P, Ottolini M, Shi Y, Barker B, Gaykema R, Newmyer B, Ohmura Y, Perez-Reyes E, Guler A, Patel M, Scott M.
Front. Behav. Neurosci. http://dx.doi.org/10.3389/fnbeh.2016.00063

私はマウスで衝動性を測定するためのプログラムを提供して、実験の遂行と論文作成にあたりアドバイスした、ということで名前を連ねています。Dr. Scottからメールが来た時は自分の作ったプログラムに興味を持っている人がいたことに驚きと喜びを覚えました。何にせよ上手くいって良かったです。

研究内容は、"DREADD(Designer Receptors Exclusively Activated by Designer Drugs)"という方法を用いてマウスの「内側前頭前野」という脳部位の「錐体細胞」という種類の細胞を活性化させることで、マウスの行動がどう変わるかを見た、というものです。結果としては餌を得ようとする行動が増えたのですが、同時に不適切な場面ではそれを抑制する能力も増した、というものでした。

以下、用語説明。
<DREADD>
ちゃんと説明すると長くなるので簡単に言いますと、特定の薬(A)にだけ反応する受容体(B)を人工的に作り出して、その受容体(B)を特定の種類の細胞(今回の研究では錐体細胞)にだけ強制的に発現させる、というものです。こうすることで、後は薬(A)を与えれば、標的となる細胞を活性化することができます。

<内側前頭前野>
ヒトでいう前頭前皮質(prefrontal cortex)に相当すると考えられる脳領域。ヒトでは理性などを司るとされています。ラットやマウスでもこの脳領域が衝動的行動の調節に重要な役割を果たしていることが知られています(2015年12月4日金曜日のブログ参照)。

<錐体細胞>
内側前頭前野にもいろいろな種類の細胞が存在します。その中で代表的なものが錐体細胞です。錐体細胞は興奮性の働きを持っていて、遠くの場所(他の離れた脳部位)に信号を送ることができます。

今後とも国内外問わず共同研究を進めていきたいものです。まずは第一歩、というところですかね。

2016年3月4日金曜日

脳科学セミナー開催のお知らせ

3月22日にゲストを呼んでセミナーを行います。場所は北海道大学医学部です。
私も前座でトークします。
ゲストの山中先生の話がおもしろいことは間違いありません。保証します。
基本的に大学生対象ですが、他の方も歓迎です。




2016年1月28日木曜日

論文紹介:ラット内側前頭前皮質のセロトニンが排尿を制御する

最近、私が指導していた臨床医の方の研究論文が無事受理され、発表されました。

The role of serotonergic mechanism in the rat prefrontal cortex for controlling the micturition reflex: an in vivo microdialysis study.
Chiba H, Mitsui T, Kitta T, Ohmura Y, Moriya K, Kanno Y, Yoshioka M, Shinohara N.
Neurourol Urodyn. 2015 Jul 30. doi: 10.1002/nau.22843. [Epub ahead of print]

第一著者の千葉先生は泌尿器科の医師で、医学博士の学位を取るために基礎医学の研究室に出向、ということで、研究指導を行ってきました。さすが外科医というか、動物の手術に関しての飲み込みが非常に早く、指導が楽でした。自分が泌尿器疾患に罹ったら千葉先生に執刀してもらいたいなあ、と思います。

さて、研究内容ですが、簡単に言うなら「ネズミを用いて内側前頭前皮質という脳の部位でセロトニンを増やす操作をしたら、排尿間隔が伸びたよ」ということです。言い換えれば、脳内のセロトニンを増やしたら排尿を制御できる、おしっこを我慢できるのではないか?という示唆を与える研究です。

日本排尿機能学会の調査によれば40歳以上の12.4%に過活動膀胱の症状があり、その約半数の人に尿失禁があるそうです。生活に支障をきたしますからこの治療は重要なのですが、あんまり受診しないそうです。恥ずかしいからですかね。「年をとったら仕方が無いんだ」という認知が広まって、受診率が上がるといいのですが。

以下、もう少し詳しく研究内容について説明しましょう。

ラットの内側前頭前皮質という場所は、以前別の論文紹介でも紹介したように、何かしらの欲求の抑制(我慢、と言い換えても良いでしょう)に関与する脳領域です。まずこの脳領域のセロトニン遊離量を測定し、ラットの排尿を誘発(膀胱に液体を流す)しているときにセロトニン遊離量がどうなるかを見ました。すると、ラットが頻繁に排尿しているときには内側前頭前皮質でのセロトニン遊離量が増えていることが分かりました。

次に、内側前頭前皮質にセロトニン再取り込み阻害薬というお薬を流して、その場所でのセロトニンの濃度を上げました。そうすると、ラットはあまり排尿しなくなったのです。

以上が概要です。

まだまだ調べるべきことはたくさんありますが、セロトニン再取り込み阻害薬が過活動膀胱に苦しむ患者さんの福音となる可能性があります。今回はセロトニンの遊離量を調節しただけですが、排尿に関与するセロトニン受容体(セロトニンを受け取って情報を次に伝える受信機のようなもの)の種類まで特定できれば、もっと効率的な薬の開発も可能になるでしょう。