セロトニン再取り込み阻害薬による不安緩和作用の作用機序解明-光遺伝学を用いて

大村 優
(北海道大学大学院医学研究科 助教)

2017年1月11日水曜日

論文紹介:禁煙補助薬バレニクリンはニコチン曝露状態に依存して衝動的行動を引き起こす

先日、禁煙補助薬であるバレニクリン(商品名:チャンピックス)が衝動性に与える影響について調べてきた成果をまとめた論文が受理されました。

Varenicline Provokes Impulsive Action by Stimulating α4β2 Nicotinic Acetylcholine Receptors in the Infralimbic Cortex in a Nicotine Exposure Status-Dependent Manner.
Ohmura Y, Sasamori H, Tsutsui-Kimura I, Izumi T, Yoshida T, Yoshioka M.

Pharmacology Biochemistry & Behavior, 2017, in press, 
http://dx.doi.org/10.1016/j.pbb.2017.01.002

この研究の要点は、「バレニクリンを投与するとラットは衝動的行動を示す。ただし、その効果はニコチンを長期投与していない場合にのみ見られる。」ということです。他にも薬の投与経路を変えることの効果やバレニクリンの効果の脳内メカニズムなど細かいこともいろいろ調べているのですが、そのあたりはこの分野の研究者以外あまり興味のないことでしょうから割愛します。

バレニクリン(商品名:チャンピックス)は禁煙補助薬として知られていますが、この薬はタバコの主成分であるニコチンと似た効果(ただし弱い効果)を持っているので、ニコチンと同様の悪影響をもたらしてしまうのでないか?という懸念がありました。動物にニコチンを投与すると衝動的になる(待てなくなる)、ヘビースモーカーは衝動的な人が多い、ということがこれまで示されてきました。では、バレニクリンも衝動性亢進作用を持っているのではないか?と考えたわけです。実際、バレニクリンは衝動性亢進作用を持っていたわけですが、動物にニコチンを長期間投与して喫煙者のような状態を作り出してから再びバレニクリンを投与すると、その衝動性亢進作用は消失しました。これはおそらく、ニコチンの長期間投与が、ニコチンの効果を担っている受容体(ニコチンに反応するタンパク質)が脱感作を起こしたからだと考えられます(繰り返し反応することで反応が鈍くなった)。つまり、バレニクリンの悪影響(衝動性亢進作用)については、少なくとも喫煙者に使っている分には気にしなくて良い、と考えられます。

最近はバレニクリンが他の依存症-アルコール依存症など-にも使えるのではないか、と期待されているので、それには若干水を差す結果となりましたが、禁煙補助薬としてはやはり優秀だった、というところでしょうか。

今回の研究は正直、そこまで目新しい成果はありませんでした。こういう結果だとあまり論文を書く気が起きないのですが、そこは自分を奮い立たせて書きました。ちゃんと資料として残して公開しておけば、誰かの役には立つかもしれませんしね。華やかな研究が注目されますが、コツコツ小さな証拠を固めて行くのも科学だ、と自分に言い聞かせて。

1 件のコメント:

  1. 大村先生
    華々しい成果ばかりが論文ではないですよね。
    研究者全体として、積み重ねた成果の上に新しい発見や目新しい発見が載ってくるのだと思います。過去の研究者の発見があり、たまたま新しいページを開けたら、それが大発見になったということはよくあることだと思います。
    大きな心で、研究を続けてください!期待しています。

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