セロトニン再取り込み阻害薬による不安緩和作用の作用機序解明-光遺伝学を用いて

大村 優
(北海道大学大学院医学研究科 助教)

2018年12月22日土曜日

論文紹介:ノルアドレナリン再取り込み阻害は内側前頭前野のドパミンD1様受容体刺激を介して衝動性を抑制する

先日、ノルアドレナリン再取り込み阻害薬のデュロキセチン、アトモキセチンが衝動的行動に与える影響とその作用の仕組みについて調べた成果をまとめた論文が受理されました。

Noradrenaline reuptake inhibition increases control of impulsive action by activating D1-like receptors in the infralimbic cortex.
Sasamori H, Ohmura Y, Yoshida T, Yoshioka M.
Eur J Pharmacol. 2018 Nov 29;844:17-25. doi: 10.1016/j.ejphar.2018.11.041. [Epub ahead of print]
PMID: 30503361

これは4月に大学院生になった笹森瞳さんとの研究です。笹森さんは学部生のうちから研究室に自主的に出入りし、論文発表までこぎつけました。無事に医師国家試験も合格し、医師兼大学院生として精力的に研究しています。

この研究は最近10年ぐらいの一連の成果のまとめのようなもので、2012年に自分たちが立てた仮説はおそらく正しいだろう、というものです。その仮説とは、多くの衝動性抑制薬には共通の仕組み(作用機序)があり、それは以下の2つである、というものでした。
1. 内側前頭前野という脳部位のドパミンD1様受容体を刺激する
2. 側坐核という脳部位のドパミンの量を増加させない

そして、この2つを満たす薬をスクリーニングすれば、効率よく衝動性抑制薬を見つけることができるだろう、というわけです。

今回はこの考え方に基づいて、デュロキセチンという薬の効果を検証し、上記の1.と2.を満たすとともに、衝動性を抑えることを示しました。さらに、すでに衝動性抑制薬として確立されているアトモキセチンという薬を用いて、上記の1.を満たすことを示しました(2.については先行研究で既に示されている)。よって、上記の考え方はおおよそ正しい方針だと結論付けたわけです。

ここまで読んで、鋭い方は、「なぜノルアドレナリン再取り込み阻害薬でドパミン関係の変化が起きるのか?」と疑問を持たれたかと思います。ノルアドレナリンとドパミンは構造は似ているものの基本的に別物です。また、こうも思われたかもしれません―「上記の1と2を両立させることは可能なのか?どちらもドパミンに関することだから、内側前頭前野でドパミンを増やしたら側坐核でも増えてしまうのではないか?」―。そうです、その通りです。しかし、まさにそこが今回の研究の「肝」なのです。

ノルアドレナリントランスポーターは通常はノルアドレナリンを取り込み、ドパミントランスポーターはドパミンを取り込みます。名称の通りです。しかし、例外的にノルアドレナリントランスポーターがドパミンを取り込むことがあります。ドパミントランスポーターが少ない場合に、その役割を肩代わりするようなのです(下図)。そしてその例外事象が起きるのが上記1.に出てくる内側前頭前野という脳部位なのです。一方、上記2.に出てくる側坐核という脳部位ではドパミントランスポーターが十分に発現しているので、名称通り、ノルアドレナリントランスポーターはノルアドレナリンを、ドパミントランスポーターはドパミンを取り込みます。以上のことを踏まえてノルアドレナリン再取り込み阻害薬でノルアドレナリントランスポーターの働きを阻害すると、何が起こるでしょうか?側坐核では単にノルアドレナリンの細胞内への取り込みが阻害されるので、ノルアドレナリンの細胞外濃度が上昇し、ドパミンの細胞外濃度は特に変わらないでしょう。しかし、内側前頭前野ではドパミンも取り込んでいるので、ノルアドレナリンだけでなくドパミンの細胞外濃度も上昇するわけです。このように、例外的事象を利用することで、一見難しく見える上記1.と2.の両立を可能にしたわけです。



以上のように、今回は巧妙に1.と2.を両立させたわけですが、この複雑なやり方だと目的以外の場所でノルアドレナリンの細胞外濃度を増やしてしまうことにもなるので、副作用が懸念されます。創薬までいくためには、もっとシンプルに1.と2.を両立できる方法を見つけられないか、と今考えていることです。結構大胆な仮説を立てて、笹森さんと一緒に進めているところです。果たして何がどうなるのか、ワクワクしています。




2018年2月12日月曜日

<論文紹介>児童青年期のマウスにおける衝動性の測定:3-選択反応時間課題の新しい訓練方法

先日、成熟前のマウスで衝動性を測る方法を開発した論文が受理されました。Open Accessなので誰でも見れます。

Assessment of Impulsivity in Adolescent Mice: A New Training Procedure for a 3-Choice Serial Reaction Time Task.
Sasamori H, Ohmura Y, Kubo T, Yoshida T, Yoshioka M.
Behavioural Brain Research. 2018. doi: 10.1016/j.bbr.2018.01.014. [Epub ahead of print]

これは医学部生の笹森瞳さんとの研究です。笹森さんは学部生のうちから研究室に自主的に出入りし、論文発表までこぎつけました。春からは晴れて医師兼大学院生...のはず。医師国家試験の結果だけが心配です。

さて、今回の研究結果の要点は、「食餌制限が難しい仔マウスで餌を報酬とした衝動性測定ができるようにしたよ」ということです。これができるようになると何が嬉しいか。一般に子供の衝動性は大人より高いとされていて、ADHDのような幼少期に発症する疾患でも衝動性の亢進は観察されます。なので子供の衝動性とその脳内メカニズムを研究することは重要なはずなのですが、これまで衝動性研究というのは方法論的な限界から大人の研究に偏っていました。このジレンマを克服する方法を開発した、ということです。

いろいろな工夫をしたのですが、主な改良点は餌制限の方法と訓練プログラムの変更です。訓練用のコンピュータープログラムも全部supplementary materialsで公開していますので、使いたい方はご自由にどうぞ。まだin press状態なのでsupplementary materialsは後日公開になりますが、いますぐ欲しいという方は大村まで連絡してください。

悔やまれるのは、論文発表が遅れたことです。ごく最近、同様の取り組みをした論文が連続して出てしまいました。「こんな面倒なこと、誰もやらないだろう」とたかをくくっていたのですが、見込みが甘かった、ということです。始めたのは私たちの方が早かったと思うのですが...。しかし、それでも私たちの方法の利点はいくつかあるので、誰かが使ってくれることを願うのみです。

最近は「方法・結果の惜しみない公開・共有」という流れが主流になりつつあり、科学界全体にとっては喜ばしいことだと思います。この論文もその流れに乗って方法から結果の生データまで全部公開しています。再現性の問題は科学界にとって最も重要な問題の1つです。自分の研究上の優位性を保ちたいがゆえに方法を一部隠す(正確に言えば隠してはいないんだけど、消極的公開というかなんというか)、というのは心情としては理解できるのですが、研究不正で科学界の信頼性が揺らいでいる今、そうも言っていられないだろう、と個人的には思っています。また、全員が出し惜しみなく公開・共有した場合、結果として科学全体の進展は早くなるでしょう。フリーライダーをどうするかという問題は残りますが。

何にせよ、学部生が論文発表する、というのは喜ばしいことでした。就職難から大学院生が減っているので、学部生をリクルートしてきたわけですが、それが一応実ったと言えるでしょう。どんどん研究室に出入りする学部生が増えてきているので、今後が楽しみです。